大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)19325号 判決 1994年7月06日

原告 伊藤栄

アック商事株式会社

右代表者代表取締役 伊藤栄

右両名訴訟代理人弁護士 片山光雄

被告 加藤浩次

右訴訟代理人弁護士 駒場豊

主文

一  被告は原告伊藤栄に対し、金一〇〇三万円及びこれに対する平成六年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告アック商事株式会社に対し、金一五九一万〇三三三円及びこれに対する平成六年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

理由

一  ≪証拠省略≫及び当事者間に争いのない間接事実を総合すれば、請求原因事実を認めることができる。

二  被告は、原告伊藤栄をアイスピックで刺して傷害を与えたのは被告ではないと主張し、その主張に沿った陳述書を提出している。ところで、被告が傷害を与えた者でないことを論拠として右陳述書に記載しているのは、原告伊藤栄が平成三年六月に被告と会ったときの印象として「色白」の感じであった旨及び同年八月三〇日に傷害を受けたときの加害者の印象の一つとして「額が白かった」旨供述したことに対する反論のみである。その内容は、被告が毎年八月上旬から一五日にかけて、伊豆白浜の知人の別荘に行っており、八月三〇日ころには顔も含めて日に焼けていたというものである。しかし、人の顔の皮膚の色に関する印象は、身長、体格などに比べて、それを表現する者によって個人差が大きいものであり、皮膚の色の印象のみで人の同一性の有無を判断することはできない。

原告伊藤栄は、その本人尋問において、右傷害を与えたのが被告であると考える根拠を種々述べており、また、同原告の供述によれば、同原告は右傷害を受けた直後に蔵前警察署に被害の届け出をしており、記憶の鮮明な右時点において、加害者に関する詳細な供述をし、調書が作成されているので、被告が真に右傷害事件に関与していないのであれば、被告としては警察に出頭し、自己が加害者でないことを弁明することも可能であるのに、被告は自己の所在すら明らかにしていないのであり(原告伊藤栄は被告を傷害等の罪名で告訴し、警察の捜査が開始されているが、被告の所在が把握できていない。)、このような被告の右陳述書による弁明は、到底採用することができない。被告は、被告本人尋問の期日として予定されていた平成六年六月一五日の口頭弁論期日に正当な理由もないのに出頭しなかったものであり、この姿勢から見ても、被告の右弁明は採用に値しない。

三  次に、被告は、別紙第三物件目録≪省略≫記載の土地が道路として使用されていたとする原告らの主張に対し、道路として使用されていたのは別紙第三物件目録記載の土地のうちの三のみであると主張している。しかし、本件訴訟においては、道路として使用されていた土地の厳密な範囲がどうであるかは、原告らの請求の当否を判断する上での争点となっていない。本件訴訟の争点は、①アイスピックを突きつけて原告伊藤栄に体当たりし、左大腿部刺創による全治二週間の傷害を負わせたのが被告かどうか、②原告会社代表者であった岡山和子の自宅の玄関に絞首して羽をむしりとった鶏四羽を投げ込んだのが被告かどうか、③別紙第一物件目録≪省略≫記載の建物の各部屋の壁に穴をあけ、ガラス、襖等を壊し、便器を破壊し、右建物に至る通路部分にプレハブ物置等を設置したのが被告かどうかであり、前記証拠によれば、右争点に係る事実はいずれも認められる。したがって、被告の右主張は、主張自体、取り上げて検討するに値しないものである。

四  右の認定判断によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから認容すべきである。本件において問題となった行為は、暴行、傷害、建物損壊等を伴う極めて悪質な暴力団構成員による競売妨害行為であり、裁判所の競売手続に対する信頼を損なわせるものであって、国民に開かれた競売手続をめざす裁判所としては、このような競売妨害行為を二度と発生させてはならないものである。原告伊藤栄は、右傷害により被った精神的苦痛に対する慰謝料として、一〇〇〇万円を請求しているが、被告の行為の悪質さにかんがみれば、右慰謝料の請求は、全額認容すべきものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 園尾隆司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例